高齢者の死亡事故のうち、交通事故が2,199件であるのに対し、転倒・転落・墜落はその約4倍の8,851件です*。実家の片づけは、親が安全、安心に暮らしていくことをゴールにして行うことが大切です。転ばず安全に暮らすための片づけのポイントを紹介します。
*令和2年 厚生労働省「人口動態調査」より
実家の片づけのゴールは、“すっきりした家”ではなく“安全な家”
子ども世代は、ものがない“すっきりシンプルな暮らし”を目指しがちですが、ものを大切にしてきた親世代にとっては、ものに囲まれている生活は豊かさの象徴。家にものがないと不安を感じがちですし、もので溢れていても気にしていません。
そのため、実家の片づけは“すっきりとした暮らし”ではなく、“家で転ぶことなく安全な暮らし”がゴールであることを子世代がしっかり認識し、親にも共有しておくことが大切です。
ポイント1:まずは“命に関わる動線”から片付ける
散らかっている家は、部分的ではなく家全体が散らかっているので、どこから片付けるべきか途方に暮れがち。まずは、“命に関わる動線”から片付けていきましょう。
「寝室~トイレ」「玄関~居間」
よく通る動線である「寝室~トイレ」と「トイレ~居間」を先に片付けましょう。
買い物をしたものが入ったままのビニール袋や段ボールなど、つまずきやすかったり避けて通らなければならなかったりするものはないかチェック。こうした床を塞ぐものは、ふだんから転倒の危険があるだけでなく、いざというときの逃げ道をなくすことにも。別の場所に移動させるか処分しましょう。
ポイント2:居る時間が場所を片づける
日中にすごしている居間、1日8時間ほど費やす寝室なども、危険がないかチェックしておきましょう。床に歩行の邪魔をするものがないか、落下の危険性があるものはないかを基準に片付けを。危険を回避したら、次に、「探し物を失くす」という視点で整理をしていきましょう。
「居間」
高齢者はあまり動かなくてよいようにと座っている場所の周りに、まるでコックピットのように必需品を置いていることが多くあります。移動の邪魔になるため、床に置いてあるものは移動させるか処分を。
テーブル上が郵便物や爪切り・文具などの日常品で溢れている場合は、カゴや空き箱などに種類別に分けて入れて整理をすると、その後も片づけやすくなります。
また、薬があちこちに置かれている場合がありますが、毎日飲まなければいけない薬は手に取りやすい場所にまとめておきます。飲み残しの薬や開封して粘着力が下がった湿布などは、処分を。
健康保険証やマイナンバーカード、診察券など命に関わるものも、置き場所を決めておくと、いざというときに子どもも把握しやすく安心です。
「寝室」
タンスの上に物がたくさん置いていないか確認。寝ている間に落下する危険がないよう、別の場所に移動させます。大きなタンスなどの家具は、それ自体が転倒すると危険です。危険のない位置に移動させたり、可能であれば処分したりするのがおすすめです。
ポイント3:火を使う台所を片づける
今は夫婦やひとり暮らしでも、子どもたちと暮らしていたときに使っていた大きなフライパンや鍋に思い入れがあり、重くて使えなくても取っていることも多いもの。さらにそこに軽くて使いやすいフライパンや鍋を足していくため、台所は物で溢れてかえっているというケースがあります。
万が一の際に避難しづらい状況を避けるために、普段よく使っている鍋やフライパンはコンロの近くなどの取り出しやすい場所に、あまり使っていないものは一時避難させるのがよいでしょう。
ここで注意が必要なのは、親の習慣を考慮すること。
たとえば、子どもが動線を考えて、よく使う軽い鍋をコンロ横の棚にしまったとします。けれど親は、鍋はコンロ下の棚にしまうのが習慣だった場合、すでにコンロ下に別のものを収納してしまっていたら、親はコンロ下の棚の前に鍋を置くようになります。
コンロ前の床に鍋が鎮座することになり、もしものときに大変危険な状況になることがあります。
火を使う台所は、動線を考慮するだけではなく、親がどこに調理道具を置きたいかを聞き、相談をしながら決めるのがよいでしょう。
実家の片づけは、「こうした方が安全」「ここに置いた方が便利」といった効率だけを考えるのではなく、親の安全を考えながら親の習慣を知って一緒に片付ける場所や片づける物を決めていくことが大切です。