相続を「人生の受け渡し」と捉え直す――。大切なのは、お金よりも「どう生きたか」という物語

  • #もめない相続

50代から70代を迎え、ご両親の介護や見送りを経験されたり、ご自身の健康や、自立したお子さんたちの暮らしを思ったり。そんな日々の中で、「相続」という言葉が現実味を帯びて聞こえてくるのは、とても自然なことです。
けれど、いざ向き合おうとすると、制度の難しさや心のざわつきから、つい後回しにしてしまう方も多いでしょう。その迷いは、あなたが今の暮らしや家族を大切に思っているからこそ生まれる、優しさの表れでもあります。
相続を、単なる事務手続きとしてだけではなく、自分の人生をどう締めくくり、誰に何を託すかという、深い「心の整理」の時間として捉えてみるのはいかがでしょうか。難しい用語はいったん横に置いて。相続を、日常の延長線上にある温かな「人生の受け渡し」として、一緒に見つめ直してみませんか。

なぜ「想い」は、受け渡しの場面で置き去りにされるのか

私たちがどれほど家族を大切に考えていても、実際の相続の場では、どうしても目に見える数字や手続きが優先されてしまいます。それは決してご家族に愛情がないからではなく、相続という場が持つ「仕組み」に理由があります。

銀行や役所の窓口、あるいは専門家との話し合いにおいて、やり取りされるのはすべて「名義」や「金額」という共通の言葉です。そこには、あなたがその資産を築くまでに流した汗や、家族で囲んだ記憶を書き込む欄はありません。公的な手続きが進むほど個人の歩みは削ぎ落とされ、整理しきれない想いだけが取り残されてしまうことがあるのです。

ここで静かに向き合いたいのは、遺す側の「込めた願い」と、受け取る側の「受け止め方」は必ずしも一致しないという事実です。たとえば、あなたが良かれと思って遺した家が、お子さんにとっては維持しきれない負担に映ることもあるかもしれません。こうした「すれ違い」は、双方が相手を大切に思っているからこそ表面化しにくいものです。

大切なのは、自分の意志を「唯一の正解」として提示することではなく、今の自分が何を重んじているのかを少しずつ言葉にして共有しておくことです。手続きという乾いた仕組みの中に、あなたの温度をほんの少し混ぜておく。その準備が、のちに家族が向き合う現実に、柔らかな意味を添えてくれるはずです。

完璧でない家族関係であっても準備は「守り」になる

「うちは家族の仲があまり良くないから」「疎遠になっている親族がいるから」。

そんなふうに思われる方もいらっしゃるでしょう。世間では「仲良し家族の円満な相続」ばかりが理想として語られますが、現実はもっと複雑で、ままならないものです。

家族関係が理想通りでない場合、意志を遺すことが必ずしもすべての解決になるとは限りません。むしろ強いこだわりが、残された人たちを縛ってしまうこともあります。けれど、自分の内側を整理しておくことには、やはり意味があると感じています。それは、誰かを説得するためではなく、あなた自身の本心を知っておくためです。

もし、お子さんたちが将来の扱いに迷ったとき、あなたの「こう考えていたけれど、最後はあなたたちで決めていいよ」というような、余白のある言葉に救われることもあるでしょう。一言「指針」があることで、家族が「親の本当の気持ちが分からなかった」という罪悪感に苛まれずに済むこともあります。

生き方や家族の形が多様な今、大切なのは「こうすべき」と決めつけることではなく、今のありのままの状況を認め、対話のきっかけを探ることです。自分の尊厳を大切にしながら、同時に残される人たちの今の暮らしにも目を向ける。そのほどよいバランスを探ること自体が、何よりの家族への配慮になるのではないでしょうか。

「今日から」始める、前向きな一歩

相続の準備を完璧にしようと意気込むと、最初の一歩はとても重くなります。まずは、身の回りにある思い出の品を一つ選ぶような、小さな整理から始めてみませんか。実務的なことなら「貴重品の場所」をメモするだけでも十分です。

「今日から終活」という言葉には、今日を大切にするために、少しだけ未来に目を向けるという意味が込められています。今日決めたことが、後で変わっても構いません。その時々の素直な気持ちを留めておく。それだけで、未来への不安は少しずつ軽やかさに変わっていくはずです。

相続について考えることに、早すぎることも遅すぎることもありません。不透明な未来に怯えるのではなく、自分の歩いてきた道を優しく見つめ直し、これからの時間をより豊かに過ごすための「整え」を始める。今の自分を大切にするその歩みが、あなたと家族にとって穏やかな未来への道標となることを願っています。私たちはいつでも、あなたの「今日」に寄り添っています。

相続会議

「想いをつなぐ、家族のバトン」をコンセプトに、朝日新聞社が運営する相続に関するポータルサイト。役立つ情報をお届けするほか、お住まい近くの弁護士税理士司法書士を検索する機能がある。以下から自治体名をクリックすると、相続会議と提携している弁護士に相談ができる。

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𠮷原友美

常務取締役、終活コーディネーター。家族が早くに他界した経験から死生観を育成して生きる大切さを知る。終活セミナーでは絵本を使い死生観について伝え、最新の終活事情・葬儀・お墓・相続についてもわかりやすく解説。セミナー参加数は累計2万人以上の人気を誇る。

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